カイゼン・マイスターが執筆した著書の紹介です。

弊社ではこれまで40年以上トヨタ生産方式を実践してきた経験を余すことなく伝えようと本を執筆いたしました。
なるべくわかりやすい表現を用いております。どうぞ参考としていただければ幸いです。

カイゼン・リーダー養成塾


2012年6月、日刊工業新聞社発行。定価2,592円(税込み)

はじめに
(1) 本書を読むにあたって
 本書は、実務の上で役に立つように、今までやって来た実践的な事例を可能な限り写真やイラストを入れて数多く紹介しているので、実務担当者の方々に分かりやすく参考になると自負している。

 と同時に企業内のカイゼン活動を成功させるためには、手法だけを覚えても不十分で、人間的・心理的な側面も極めて大事であるのでその点も強調している。なぜならば、40年以上にわたる私共自身の実践結果と国内外の多くの大企業・中小企業のカイゼンを手掛けてきた経験からカイゼンを成功させるには「心技体」の充実が欠かせないと確信するに至った次第であるからである。

 したがって、本書を読み進めるに当たりカイゼンの手法を勉強したい実務担当の方は、「第2章 カイゼンの技」と「第4章 カイゼンを推進するためのパターン(定石)と事例」を先に読んでいただいても結構である。ただし、経営者として自社にカイゼンの導入を検討されている方、または自社内でカイゼンを推進中の方は、「第1章 心技体の充実でリーダーを養成する」と「第3章 現場で必要な管理能力と監督能力」にも是非目を通していただきたい。

(2) 背景
モノづくりに対する危機感
 2011年3月11日の東日本大震災は1000年に1度という悲惨な災害として、日本だけでなく世界の歴史に残るであろう。被災地の一刻も早い復興を祈るばかりである。この大災害以前から、日本から海外への工場の移転が進んでいたが、これがさらに加速させるのではないかという大きな危機感を持っている。

 日本は天然資源に乏しく資源・食糧を輸入に頼らざるを得ないという宿命は変えようがない。「天然資源に代わり、人間の知恵と工夫と創造力で生きていくのが日本の宿命である」と悟ったとき、広い意味でのカイゼン活動は国にとっても企業にとっても必須の活動である。

中小企業はモノづくりの礎
 中小企業庁の定義する従業員300名未満の中小企業(製造業)は、事業所数で99%、従業員数で88%を占めており、わが国の産業の礎である。
東日本大地震は、図らずもグローバル・サプライチェーンを通じて日本の中小企業の部品なしでは世界中のメーカーの工場が動かないことが判明し、日本の中小企業の存在感の重さを示すことになった。中小企業が元気になって若い人がどんどんそこで働くようにならないと日本という国は成り立たないのである。

 欧米に比べて圧倒的な規模のハンディを負った背景で生まれたトヨタ生産方式は、業種の壁、規模の大小を越えて、中小企業に多い多品種少量生産に適している。私共は2007年の起業以来、150社以上の顧客とお付き合いをしてきたがそのほとんどが中小企業である。したがって、本書の中身は共通の課題を整理した上で中小企業の経営者・管理者の皆さんの役にたつことも目指している。

(3) 起業の経緯
弊社の特徴は、下記の2つに集約できる。
 第1の特徴は、全員が「定年」で現役の第1線を退いてからこの仕事を始めたことである。これからは、言わばお返しの人生であり、40年以上のトヨタグループでの経験と知識を生かして中小企業の経営者の相談相手になれれば幸いであると思っている。

 第2の特徴は、信用金庫や地方銀行などの金融機関との業務提携を通じて、その融資先の中小企業のカイゼンを支援することを主な仕事としていること。
多くの中小企業経営者にとって、資金繰りは最大の関心事の一つであるので、カイゼン活動と相まって金融機関との提携が頑張る経営者への支援になれば幸いである。
弊社と業務提携契約をしている金融機関などを表1に示す。2012年において、さらに複数の金融機関と提携の交渉中である。

 また、地元政令指定都市・相模原市の第3セクター(さがみはら産業創造センター:Sagamihara Incubation Center略称SIC)と協力し、地域活性化へ貢献することにも力を入れており、地域の中小企業を対象に共同で塾を開いたり、カイゼンの自主研究会を開催したりしている。
弊社の顧客は、北は青森から南は鹿児島にかけて、従業員数名の小規模企業から数百人の中規模企業までがほとんどであるが、中には数千人の大企業も含めて幅広く改善支援を実施している。業種も製造業だけでなく農林水産関係、食品加工、病院などのサービス業にも及んでいるので本書は幅広い業種に役に立つと信じている。なお、海外では豪州でトヨタ・オーストラリアのサプライヤー支援のお手伝いも一部させて頂いている。

(4) カイゼン活動の前提
安全第1
 モノづくりにおいては、まず何よりも安全が優先されなければならない。すなわち人を大事にするという経営理念があることが前提である。

 労働災害に関しては、ハインリッヒの法則がある。これは「1件の重大災害の裏には29件のかすり傷程度の軽災害があり、300件のヒヤリとしたりハットしたりする経験がある」という経験則である。したがって従業員がヒヤリとしたり、ハットした経験をした段階で問題を潰し重大災害を防ぐ活動が大事である。
4S(整理・整頓・清潔・清掃)から始まって安全・品質を第1に考える習慣を会社全体が共有することがカイゼンのスタートである。
 「モノづくりは人づくり」といわれる所以である。

平時の危機意識
 例えば、在庫削減はすぐキャッシュ・フローのカイゼンには効くが、それが損益計算書のカイゼンにまで行くためにはある程度の時差がある。またカイゼン活動を通じて人が浮いたとき、その人を別の新しい仕事などで生かしていくことが従業員のモチベーション向上のためにも重要である。

 ところが会社更生など会社が危機に瀕したときは、今すぐ待ったなしの収益改善が求められるが、このような場合は副作用も大きいことも覚悟しなければならない。典型的なものが、会社の構造改革でいわゆるコストカッターといわれる人たちが乗り込んできてやる常套手段で、まず外注部品や資材の購入価格をすぐ下げることである。これは、すぐ収益改善につながるがサプライヤーのコストが販売価格に見合って本当に下がらなければ、価格とコストの矛盾がいずれ表面化する。また、サプライヤーと一緒に知恵を出し合って原価を下げていくような活動に不可欠な長期的なサプライヤーとの信頼関係も失うことになる。

 工場閉鎖やそれに伴う人員の整理も同様に、従業員との信頼関係に大きなマイナスの影響を与えてしまう。したがって、「治に居て乱を忘れず!」で、業績が順調な平時において危機感を持つことを習慣化している会社こそ目指すべき会社である。

2012年4月
著者

小森社長のコメント
 本書は実務の上で役に立つように、今までやって来た実戦的な事例を可能な限り写真やイラストを入れて数多く紹介しているので、実務担当の方々に分かり易く参考になると思います。

 同時に、企業内のカイゼン活動を成功させるためには、手法だけ覚えても不十分で、人間的・心理的側面も大事であるのでその点も強調しています。

 定価は2,400円(+税)ですが、この道40年のベテラン5名が精魂込めて共同執筆したものであり、カイゼンのニーズのある読者には十分元が取れると自負しています。

 ぜひ本書を手にとっていただき貴社のカイゼンと生産性の向上、社員さんのモチベーションアップに繋げていただきたいと思います。

トヨタから学んだ本当のカイゼン


2016年7月、日刊工業新聞社発行。定価2,376円(税込み)

はじめに
 私どもはトヨタ自動車及びセントラル自動車(現トヨタ自動車東日本)を定年で退職してから、2007年に株式会社カイゼン・マイスターを設立し、以来製造業だけでなく、農業や水産加工業や金融業をはじめとするサービス業など累計二百数十社の様々な業種の現場改善に携わってきた。

 本書の著者であるメンバーは、現役時代に製造部門、生産技術部門、生産管理部門、調達部門、品質保証部門等を経験したエキスパートであり且つ関連会社のトップ等の経験を通じて経営にも携わったが、いずれもトヨタグループの自主研究会活動等を通じてトヨタ生産方式(Toyota Production System 以下TPSと省略)の考え方を実践を通じて身に付けてきた背景がある。

 そのような訳で、本書のタイトルである「トヨタから学んだ本当のカイゼン」は、教師である「トヨタ自動車」の関係者に改めて敬意を表す意味も込めてつけたものである。

 ところで、TPSに関する書物は色々な形で巷に溢れているが、実際に自社の現場に導入する段になるとどうしてよいのか分からないという話を聞く事が多い。

 何事においても理論を学ぶこととそれを現場で実践する事の間にギャップがあることは当然であるが、TPSも例外ではない。そのギャップを埋めるために何が必要であろうかと考えた末に、日刊工業新聞社とも相談の上、本書は皆さんが疑問に感じている事に出来るだけ分かりやすく一つひとつ応えようと問答形式をとることにした。

 多くの企業の現場改善の支援活動をしていると、経営者だけでなく現場のリーダーが本当に知りたい事や共通の課題が見えてきたものである。それらの課題を問答形式で漏らさず提供しようというのが本書の目的である。

 なお本書とは別に、実際の改善事例集をまとめた「カイゼン・リーダー養成塾」(2012年6月、日刊工業新聞社刊 小森治編著)や月刊誌「工場管理」に毎年カイゼン・マイスター特集記事として多くの改善事例を長期にわたって掲載してあるので、本書の問答集と共に具体的な現場での改善事例集にご興味があれば一読される事をお薦めしたい。

 トヨタ生産方式の狙いは、一言でいうと「徹底的なムダの排除」に尽きるが、そもそもムダと言うものは、現場では「私はムダです」という顔をせずに、いかにも「私は必要不可欠な仕事である」という顔をしているものである。

 特に同じ仕事を長い間続けていると「今は何でもない」と思っている仕事の中に多くのムダが隠れている事に気づかずにいる事が多い。

 そこで、今の仕事を見直すきっかけの1つとして「正味作業時間比率」という視点を持つ事をお薦めしたい。

 まずモノの4つの状態を知ることは、現場を見る時の基本である。
 モノの4つの状態とは、①停滞、②検査、③運搬、④加工の事を言う。
 ①停滞とは、何もされていない状態で在庫になっているもの
 ②検査とは、加工されたものの良否を確認されている状態
 ③運搬とは、ものが移動している状態
 ④加工とは、ものの状態が変わることで、切削されたり、溶接されたり、組付けられたりしている状態

 この中で加工だけが形が変わるので付加価値がついて最終工程に近づく。

 それ以外の停滞、運搬、検査は、モノを造る上でどうしても必要な工程ではあるが、それ自体に付加価値は付いていないので、最小限に抑えるべき工程である。

 停滞、運搬、検査は工数をかければかけるほど、原価が上がる。

 加工は付加価値を上げ、停滞、運搬、検査は原価を上げるだけと言われる所以である。

 現在皆さんの工場で原材料から完成品になるまでのリードタイムの中で、加工だけの比率(正味作業時間比率)を測って見ると驚くほど低い事に気づくはずである。

 材料や仕掛品として在庫の状態で停滞していたり、長い動線を運搬している事が仕事であると勘違いされている方も少なくない。

 正味作業時間比率というものが、圧倒的に低いことに気づけば、改善のネタは無限にあることに気づくはずである。

 本書は改善に取り組むに当たり、まずは改善の心構え5箇条と、改善に取り組むモチベーションや物の見方の重要性などについて、基本問答集として触れることにした。

 また、具体的な現場の問答集では、皆が知りたいと思われる事を問答形式で対応する内容としたので、具体的な現場の問答集から読み始められても結構だが、心構え5箇条と改善の基本問答集も取り組む際に重要な視点を提供しているので是非目を通して頂ければ幸いである。

2016年7月
(株)カイゼン・マイスター

小森社長のコメント
 本書もトヨタ生産方式がわかりやすく述べられています。

 カイゼンとは一言で言えば、「徹底的なムダの排除を通じて、原価低減と品質向上を実現する活動」のことです。

 その元となるトヨタ生産方式は「自働化」と「ジャスト・イン・タイム」のふたつの考え方を柱として確立されました。
自働化は異常が発生したら機械がただちに停止して不良品を造らないようにする考え方です。トヨタでは人を現す「にんべん」がついており「自動化」ではなく「自働化」となります。

 これは合理化を進めるあまりに従業員の人間性や労働意欲を無視してはならないという考え方が根本にあります。また「ジャスト・イン・タイム」はそれぞれの工程が必要なものだけを必要なだけ作る考え方です。

 中小企業では難しいと考えられる方が多いですが、中小企業だからこそやらなければならないことなのです。